・サンライズキング ・ツルマルファイター ・スリージェム ・テイエムアクション ・エイシンハンプトン ・ニホンピロサート ・メイショウサライ ・サイレンスボーイ
栗東トレーニングセンターができた当初はイタチ、リス、狐、狸だけでなく、鹿までがコースに飛び入り。坂路調教に参加したこともあったという。“鹿のあとを馬が追い、馬のあとを鹿が追う。鹿、馬……馬、鹿……馬鹿……”―まるで落語のオチのようなのどかな風景が広がっていたのである。トレセンの周囲がすっかり整備された現在は馬場へ侵入する野生動物の数が激減してしまった。馬にとってはいいことかもしれないが、こと環境の変化という意味では少々心配な部分もあるように思う。いずれにしても、6月8日の坂路一番乗りが狐(間近で見た人間の証言により)だったのは間違いない。
「おはよう、村上さん、久しぶりやんか。うん、俺も元気にしてるで。えっ、オークス?惜しかったというんか、よう走ってくれたというんか……。まあ、終わってあれこれ言うてもしゃあないわ。精一杯仕上げたんやし、馬も精一杯走ってくれたんやから。結果は2着やったけど、着順に関係なく馬を褒めてやらないかんわな。そんなことよりも、またトレセンに顔を出しいや」
エアデジャヴーという馬を記憶しているファンの方はどれだけいるだろうか。1995年に生まれたノーザンテースト産駒の牝馬で全成績は13戦2勝。新馬とクイーンSを勝っただけだったが、98年には桜花賞3着、オークス2着、秋華賞3着と活躍した。残念ながらG1には縁がない不運の馬だった。その馬の子供を仲良しの野田健次郎厩務員(通称健ちゃん)が担当していると知り、早くから注目していた。健ちゃんは23歳のとき(75年)に愛馬ロングフアストとともに牡馬三冠に挑戦。皐月賞4着、ダービー2着、菊花賞2着と活躍しながら、G1には手が届かなかった。あれから30年が過ぎたが、依然としてG1とは無縁の彼である。
今年の桜花賞、オークスは当然のように健ちゃんとエアメサイアを応援して単勝と馬単を買った。しかし、桜花賞が4着でオークスでは2着。勝負弱い私が馬券を買ったのが敗因なのか、それとも母デジャヴー(既視体験)の血をあまりにも完璧に受け継ぎすぎているのか、娘のメサイアもG1には縁がない。しかし、私よりはひとつ歳下の健ちゃんと3歳のメサイアとのコンビにまだ時間は十分にある。秋華賞で、そしてエリザベス女王杯で悲願のG1制覇を達成してくれると信じている。
「村上さん、マルカダイシスの子供が○○厩舎に入ったの知ってます?まだ見に行ってないんですが、どんな雰囲気の馬なのか楽しみなんですよ。そういえば他にも産駒が2頭いて、どちらも韓国へ行ったみたいなんですけど、なにかそれに関する情報はありますか」
調教に向かう馬上から私に声をかけてきたのは安藤正敏厩舎所属の佐藤淳調教助手。旧内藤繁春厩舎時代の担当馬マルカダイシスの産駒を気にかけているのだ。彼がトレセンにやってきて間もない頃に担当したマルカダイシスは短期間に条件戦からオープンまでトントン拍子に出世。96年には鳴尾記念を勝って暮れの有馬記念にまで挑戦。感極まりない表情でテレビ局のインタビューに答えていた彼の初々しい表情は忘れられない。会うたびに「編集員通信いつも読んでます。ネタ切れのときや急用のときは言ってくれれば代筆します。“愛馬と私”みたいなコラムならすぐに書けますから、いつでも電話ください」とアピールを続ける彼。憎めない可愛いヤツである。土曜夜に突然呑み会が入ったら連絡するから、そのときは頼むぞ、淳。 6月14日から馬場開場が午前5時になると聞き、それまでに一度顔を出そうと慌ててトレセンに出掛けた早起きに自信のない私。例によってヘラヘラしながらあっという間に調教時間が過ぎた。坂路をあとにして逍遥馬道の横道を歩いていると、突然、肩越しに馬の大きな顔が出現。腰から下が崩れ落ちそうになるほど驚いた。体勢を立て直しつつ横を見ると渡辺薫彦(くにひこ)騎手がその背で嬉しそうに笑っている。私を驚かせようと背後から忍び寄ってきていたのだった。
「トレセンにきたばかりの2歳馬なので、乗っていても物見してばかりで困ってたんです。ちょうどいいところで会ったので、村上さんのおもしろい顔でもアップで見れば、少々のことでは物見しなくなるかなって思って(笑)。どうです、いい判断でしょ」
普段から口うるさい私に対する報復行動だったのか、それともほんとうに物見が激しくて困っていたのか。そのあたりについては正確には判らないが、次に会ったときには個人的に激しくいじめてやろうと固く決心した。覚えてろよ、薫彦! 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP