・グラスボンバー ・ユキノサンロイヤル ・トーセンダンディ ・ラヴァリージェニオ
・マイネソーサリス ・マイネサマンサ ・メモリーキアヌ ・レクレドール ・ダイワエルシエーロ ・ミスパスカリ
スイープトウショウ……ゲートの出はいくらか遅かったが、この馬としてはスムーズだった方。中団で流れに乗って機を窺ういつになく隙のないレース運び。他馬が仕掛けた4角でも無理に動かず我慢。直線では身上の切れ味をフルに生かした。これまでは後方追走から大外を回って直線勝負に賭けるというワンパターンの荒業でしか勝てなかったことを考えると、その変貌ぶりには驚かされる。馬場で乗っても一旦機嫌を損ねると動かなくなり、ゲート再審査になってもゲートに近寄ろうとしない。そんな気難しさ(意志の強さ)がこの馬の成長を妨げていて、主戦の池添騎手が調整ルームに入る土日は満足な調教すらできなかったと聞く。ところが、3月に鶴留明雄厩舎に移籍した山田和広調教助手が稽古に跨るようになり、ダク、キャンター、ギャロップで走りに気持ちを集中させることを気長に教え込んだ。そんな彼の4カ月にも及ぶ苦労が報われ、スイープトウショウが人間を信頼してその指示通りに走ることに納得するようになったのだ。競走馬が成長する過程において人間のサポートは不可欠でもある。秋以降のこの馬の動向には更に注目しておきたい。
ハーツクライ……ビシビシ追い切って馬体増。例によってこの手しかないとばかりの直線勝負。人気馬が早目にやり合う展開も味方したが、ギリギリまで仕掛けを辛抱してラスト1ハロンでは強烈な伸びを見せた。正面からの調教VTRを見ていただければ判ると思うが、前足を開く(片仮名のハの字のように)独特のフットワークで駆ける馬。それだけに他の馬よりも走りに無駄が多くなり、本格化にも手間取っていた印象。器用に馬込みをさばけないというウィークポイントもあってどうしても展開に注文がつきまとうが、デビュー以来最高のデキに仕上がって結果を出せたのだから、ひとつの壁を破れたかもしれない。
ゼンノロブロイ……キッチリと仕上がっていた。テンに少し行きたがる素振りを見せた段階で内に進路を取ったのは当然の判断。すぐに折り合って追走できたが、4角でリンカーンに先にスパートされて進路を断たれる場面があって仕掛けが遅れた。スムーズにさばけていたにしても、流れを考えれば勝つまでは難しかったかもしれない。これで古馬になって休み明けを3度経験して2、2、3着。ウインジェネラーレ、ナリタセンチュリーといった格下とも思える馬に先着を許したことがあるように、本質的には叩き良化型なのかもしれない。G1・3連勝を達成した昨年の年度代表馬だが、個人的には強力なライバル不在で相手関係に恵まれた印象を拭えなかった。海外遠征で私のそんなイメージを一掃するような活躍をして欲しいものである。
リンカーン……いい位置で折り合う理想的なレース運び。結果的には仕掛けが早かったようにも映るが、前に位置するタップの連覇を阻止して内のゼンノを封じ込めようとするならあのスパートしかなかった。終わってみればいい脚を長く使えないこの馬の弱点が浮き彫りになったということ。輸送で体調を崩したり下痢がなかなか止まらなかったりする線の細さは徐々に解消しているようだが、古馬の男馬としてはまだ心身とも逞しさに欠ける感。
サンライズペガサス……屈腱炎という難病と戦いながらのG1挑戦だが、加減することなく一杯に追われてそれなりに仕上がっていた。道中はリンカーンと前後する位置で前を射程圏に入れての追走。4角で他馬に寄られる不利があってモタつき、立て直して追い出すまでのロスが致命的。そこから伸びて5着なのだからなんとも惜しい内容ではあった。
タップダンスシチー……3角手前から先頭に並びかけるロングスパートは好漢・佐藤哲三らしいいつものパターン。右回りだと内へモタれるこの馬を早めに先頭に立たせてラチ沿いを走らせたいという読みだったのだろう。ただ、ハナを切っているコスモバルクの抵抗にあってなかなかこれを交わせなかったことに加えて、その段階でフラついてもいた。その時点でもう余力はなかったということ。得意の左回りで、しかも脚質にピッタリの小回りだった中京。そんな最高の舞台で金鯱賞3連覇を果たしたというだけで単勝オッズ1.9倍に祭り上げたこと自体に問題があったのかもしれない。8歳以上(2000年までは9歳表記)の馬がJRAG1を勝ったことがないのは歴然とした事実なのだから。
1番人気の8歳馬が完敗を喫してJRAが望んでいる3歳馬の挑戦もないまま盛り上がらずに終わった宝塚記念。昨年5月のこのコラム『開催日程の変更を』でも書いたが、調整の難しい夏場のこの時期にG1レースを行う必要があるのかどうか。改めて言っておくが、この時期の関西の開催日程を以前のように京都→阪神→中京→小倉の順番に戻す時期にきているのではないか。蒸し暑い時期に消耗戦のG1なんて見たくない。 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP