・ヴィータローザ ・チャクラ ・アグネスシラヌイ ・エリモマキシム ・フォーカルポイント ・グラスボンバー ・ダイワレイダース
8月17日(水)はスケジュールの谷間で時間的には余裕のある一日のはずだった。午前中こそ雑用に追われてバタついたが、午後に入ってからはこれといったトラブルもないまま平穏。できあがった土日の各競馬場の想定表を机の上に並べつつ仕事の分担表でも作ろうかと考えていたところに一本の電話が入った。出てみてビックリ。まるで冗談のような電話内容だったのである。
C「突然お騒がせします。私、フジテレビの『トリビアの泉』の番組企画を担当している日本○○のCというものですが、この番組はご覧になっていただいたことがあるでしょうか」
私「暇なときはだいたい拝見していますが、それがなにか?(電話内容が本物かガセか疑っている)」 C「実は今回、競馬のネタを取り上げようと思っているんです。騎手がレースに乗るときに身に着ける勝負服ってありますよね。今年のG1レースで勝負服を忘れてJRAの貸し服で騎乗した騎手がいたということですが、あの騎手は以前にも勝負服を忘れたことがあったんでしょうか。使用料は500円と聞いていますが、貸し服で大きなレースを勝った騎手が過去にいたんでしょうか。参考までに、これってトリビアになるかどうかというご意見もうかがいたいのですが……」
私「まず、騎手がJRAの貸し服を着ているからといって、必ずしも忘れたとは限りません。新たに馬主登録をしたオーナーがいて作った勝負服ができあがっていない場合、それまでの勝負服から新たなデザインに変えたが間に合わない場合、急きょ名義変更をした場合と、いろんなケースが考えられます。だから一概に“貸し服=忘れ物”という判断は誤りです。それと、正当な理由がなくて勝負服を忘れた場合は騎手ではなくて調教師にペナルティー(1万円の罰金)が科せられます。馬装上の義務を怠ったという判断がなされるわけです。服の使用料も大半は調教師が支払っているのが実情のようです。過去に貸し服で大きなレースに勝った馬がいたかどうかとなると調べるのが難しいですが、G3ぐらいでならあったように記憶してます。少々時間をいただければ調べられると思いますが、これがトリビアとして番組のゲストや視聴者に受けるかどうかとなるとなんともいえませんけどね」
C「こちらからご相談申し上げているのですから少々時間がかかってもなにひとつ問題ありません。後日、改めて電話しますので、お手数をかけますが、どうぞよろしくお願いします」
電話が切れた途端に「貸し服で重賞の記念写真を撮っていた馬がいた記憶がありますよ」と隣の席のMが言えば、向かい合わせの席のNやSも「トリビアの泉の取材ですか?」と興味津々の様子。会社で二番目のおしゃべりでいて、なおかつ地声のよく通る私の長電話。その内容が周囲にバレバレとなっているのは当然だった。いつものことながら、仕事以外のことで大騒ぎして編集部の勤勉な雰囲気を乱したことを一応は反省したが、こうなったらトコトン調べてやるぞと決心した嬉しがりで軽薄な私であった。
それからというものは、JRAの広報室に問い合わせたり会社の資料室(独身寮の書棚)にこもったり。弊社コンピューター部門のY君にも「個人的な趣味の領域だから優先事項ではない」と前置きしつつも「もし手間がかからずにデータを出せるのなら」と調査を依頼。挙句の果てには騎手、調教師に取材までしたのだが、それをすべて書き綴っていくと際限がなくなるのでとりあえず結論だけ。貸し服で重賞を勝った騎手はいた。詳細は次週に改めて『勝負服のトリビア・2』として紹介しようかと考えているが、この勝負服ネタって、たとえ放送でトリビアとして取り上げたとしても『80へえ〜』を超えるなんてことはまずあり得ないよな。 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP