・ショウナンパントル ・ニシノナースコール ・フェリシア ・デアリングハート ・エイシンテンダー ・レースパイロット ・コスモマーベラス ・ライラプス ・ジェダイト ・エアメサイア ・ラインクラフト
10月5日、水曜日。早朝から雨。今年は水曜日に雨の降ることが多い。『雨の日と月曜日はいつも憂鬱』と歌ったのはカーペンターズだが、競馬サークルにとって『雨の日の水曜日は憂鬱』なのである。水曜は追い切り日である。つまり、週末にレースに使う馬の大半がこの日か翌日の木曜に最終調教をする。雨量が多くなると馬場コンディションが悪くなり、存分にトレーニングが積めない。そんな状態になると各馬の調教の動きも正確には観察できなくなってくる。水曜日の雨はなにひとついいことがない。 「顔に雨があたるだけでイヤイヤをする馬もいれば、雨がひどくなると体を硬くして全力で走ろうとしない馬もいる。乗ってる俺たちだって大変。合羽を着て乗ると普段ほど体が自由に動かないし、操作しようにも滑ったり馬に対する指示が遅れたり。軽いところを乗る日なら少々のことは我慢できるが、追い日ぐらいはなるべく晴れてほしい。今年の水曜日は雨ばっかりだもんな」 これは顔馴染みの調教助手の愚痴。雨が嫌なのは乗り手や馬だけに限らない。取材陣も同様なのだ。基本的にトレセン内では傘が禁止されている。5日の午後に厩舎を回る取材班は長靴をはいたり合羽を着たりと準備に余念がなかったが、準備して出かけられるときはまだマシな方。突然の夕立に出逢った場合は手の打ちようがない。滝に打たれたかのようにビショ濡れになって手に持っていた資料もボロボロ。とても取材にならなかったなんて経験が私にもある。G1が続く今後の水曜日はなんとか晴れてほしい。 「還暦を迎えられたとのこと。おめでとうございます。なんともお若い60歳ですね。いまや人生85年の時代になりましたし、ここ数年のうちにダービーを勝つ予定を組んでいることでしょう。そういった目標に向けて、更なる活躍を祈っています。体にはくれぐれも気をつけて」 10月6日、木曜日。曇り一時雨。午後に橋口弘次郎調教師に上記のようなメールを送った。現場時代に随分お世話になった人物で、内勤になってからもごく稀にだが「いま近くで飯を食ってる。会話の中でアンタの名前が出てきて懐かしくなって電話したんだが、よければ一緒に一杯やらんかね」といったふうに誘ってくれたりする。なかなか顔を出せないのが残念だが、その気持ちが嬉しい。厩舎担当者から「昨日は橋口さんの誕生日、満60歳の区切りですよ」と聞いたこともあって一日遅れのメールをしたのである。 「ありがとうございます。村上さんからメールがくるとは思ってなかったから、嬉しいな。もう60歳ではなくて、まだ60歳の気持ちでがんばります」 私が送信した数分後に返事が届いた。年齢を感じさせない反応の早さである。私が携帯電話でメールをはじめた直後に「私もメールをはじめました。細かいことはよく判らんけど、メル友にならんかね」と声をかけてきた同調教師。10年ほど前の話である。気持ちも風貌も若く進取の精神に富む橋口さんらしい行動だった。以降は互いに知識を交換しつつなんとかメールを使いこなせるようになった。現場を離れたためになかなか顔を合わせる機会はないが、いまでも会話ができるのはメールがあればこそ。 10月7日、金曜日。曇りときどき雨。昼休みに関東のAに電話した。彼は専門紙K所属の取材担当記者で競馬サークルに幅広い人脈を持つ人物でもある。ノリ(横山典弘騎手)が酒も煙草もやめたという噂を聞き、その背景になにがあるのか興味が湧いたのだ。すれ違ったら軽く挨拶を交わす程度で私自身はとくにノリと親しいわけではない。最後に顔を合わせたのは昨年の帝王賞の日の大井競馬場。もちろん携帯電話の番号もメルアドも知らない。それで彼と親しいA記者に話を聞くことにしたのだった。 「煙草をやめたのはもう3、4年ほど前。怪我で入院していたとき自然にやめられたって話してましたよ。酒をやめたのも1年ぐらい前だと思います。もともとが付き合いで飲んでいただけ。ひとりでも飲むほどの酒好きなタイプではありません。だから、なにかのために酒や煙草をやめたとかいう話ではありませんよ。でも、ここ数年は精神的に安定してきた感じ。成績が安定してきたのはそのあたりが一番の理由じゃないのかな」 “禁酒禁煙で目標に向かって邁進する”―そんなストーリーを勝手に作って最近の好成績に結びつけようとしていた私の安易な推理は見事に外れた。しかし、最近のノリには全盛期の華のある騎乗が戻りつつある。驚異的なペースで勝ちまくる武豊を脅かす資質を持つ騎手は誰かと考えると真っ先に思い浮かぶのが彼の姿なのである。ゼンノロブロイとコンビを組む予定の秋の天皇賞でノリがどんなレースを見せてくれるか。いまからその日を楽しみにしている。 10月8日、土曜日。この日も一日雨。朝から週報の厩舎レポの割り付けに四苦八苦。誌面のマイナーチェンジを図るため、レポ用の写真を大中小の三種類に変えてみたところ、これが実に厄介。細かい行数計算に微妙な狂いが生じるだけでなく、画一的だったいままでと違って割り付け担当者のセンスの有無がはっきりとページに出てしまうのだ。通常の倍以上の時間を費やして作業を終了したが、上がったゲラを見てゲンナリ。大雑把にしていい加減、センス皆無だったのである。それから更に一時間を費やしてなんとか改良ページは完成した。決して誇れるレベルの割り付けではないが、馬の表情をアップで捉えた写真の優しさはモノクロームならばこそ。そんな馬の顔写真を眺めていたら疲れが吹っ飛んで元気が出てきた。 よ〜し、日曜日は馬券を当ててやる!
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP