・デルタブルース ・ビッグゴールド ・ニシノドコマデモ ・ダイタクバートラム
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第66回菊花賞はディープインパクトが三冠を達成して幕を閉じた。その歴史的瞬間や関係者のコメントについては各メディアが詳細に取り上げているのでそちらに譲るとして、ここでは例によって週刊競馬ブック『次走へのメモ』形式で、菊花賞のレース回顧をしてみる。 ディープインパクト……珍しくゲートを五分に出ていつもより前で流れに乗ったが、1周目の3〜4コーナーでまともに引っ掛かる場面。内目に入れて前に馬を置く形でなだめたが、しばらくは行きたがる仕草を見せていた。思えば過去のレースでもテンにガツンと行きそうな瞬間は何度かあったが、ゲートの出が遅いために周囲に馬が少ないバラけた状況でポツンと行けたこともあって、はやる気持ちを抑えられたのだろう。菊花賞は極限の仕上げで臨んだために掛かったという声もあるが、それは見当外れ。何故なら長距離輸送を挟んでの出走だったダービー時の方が密度の高いよりハードな調教を積んでいた。今回は尻っぱねしてイレ込んだダービーを教訓にして多少は調教をセーブしておつりを残しての出走だったはず。結果的には2着馬に2馬身差をつける完勝。この世代では能力が傑出していた。今後について考えたときには、掛かったにせよゲートを五分に出てある程度の位置につけてレースができたというのは収穫。いつまでもゲートをボコンと出て後方追走から大外をぶん回るという力まかせの競馬をしていては、力量が接近した相手と戦う場合に取りこぼさないかとの危惧がある。“歴史的な名馬を型に嵌めて批評するな”とお叱りを受けるかもしれないが、欧米の一流馬と戦うことを想定するとまだまだ課題は少なくない。あくまで敵は世界なのだから。 アドマイヤジャパン……返し馬のフットワークは少々硬かった。2番手でスムーズに流れに乗る。ゆっくりと逃げるシャドウゲイトを交わして4角先頭。直線ではそのまま押し切るかと思えたが、勝ち馬にあれだけの脚を使われては仕方ない。一部では早熟型という声もあったが、見事にそんな評価を覆した。あくまで想像だが、ダービー時は体調が本物ではなかったのではないか。皐月賞まではCWコースで長目から追い切ることを常としていたのに、その後は坂路主体に切り替えての調整。競走馬が突然に調教法を変えるのにはそれなりの理由があり、体質の弱い馬の仕上げには想像以上の苦労が伴うものなのだ。走りに伸びやかさが出てきた秋緒戦の神戸新聞杯では大いに注目したが、直線半ばからは無理に追わずに流すような走りで5着。VTRで確認して“何か異変が”と気になった。その後に「乗り手がトモに違和感を覚えた。手前を替えるときに滑ったのか、それともひねったのか」という調教師のコメントを目にしてそれならばと納得したが、要はその後の調整がどうなのかがポイント。CWで加減せずに乗り込まれていた段階で今回の好走は約束されていたのかもしれない。物言わぬ馬について考えるときに調教内容は体調把握のバロメーターになる。 ローゼンクロイツ……春と比べるとひと回り大きくなってパワーアップ。前半は少々行きたがる素振りをみせていたが、2周目に入ってからはスムーズに折り合う。4角手前からは楽な手応えで3番手に上がり、満を持して追い出されたが、直線ではフラつく場面もあって思ったほど伸び切れなかった。個人的には好きなタイプの馬なので“思ったほど伸び切れなかった”と書いたが、舞台が3000メートルのG1だったことを考えると好走の部類だったかもしれない。これでデビューから9戦して(3.2.2.2)の成績を残しており、掲示板を外したのは9着の皐月賞と8着に終わったダービーだけ。長距離輸送を挟む関東圏のレースではまだ全幅の信頼は置けないが、あの馬っぷりとあのフットワークはなんとも魅力。精神面の逞しささえ出てくれば場所を問わずに安定して走るようになってくるだろう。母ロゼカラーが、そして姉ローズバドが幾度も挑戦しながら果たせなかったG1制覇に向けて、これからの活躍に期待したい。 ここまで書いたところで大幅な行数オーバーに気づいた。口数そのものが多いだけでなく文章さえも流し書きでまとまりがつけられない私。このまま好き放題に書き殴ると3、4週分の原稿量になってしまうのでこのあたりで打ち切らざるを得ないが、最後にひと言だけ付け加えておきたい。 10月18日(火)の早朝にトレセンへ行った際、シックスセンスの馬上からこちらを見て軽く頭を下げてくれた坂本敏行調教助手。無駄肉のない研ぎ澄まされた馬体の素晴らしさと、いつもは笑みを絶やさない明るいキャラの彼が口元を真一文字に結んでいる姿が印象的だった。そして、その残像はいまでも私の心に残っている。三冠レースでディープインパクトを負かすことはできなかったが、常に全力で立ち向かったシックスセンスと彼らスタッフには心から拍手を送りたい。素敵な敗者がいればこそ勝者がより輝くのである。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP