『さらば、中山の朝日杯』
▼ふたつの改革 10月21日に2014年の重賞日程が発表されてから、ひと月以上が経ちました。既にあちこちのメディアで語り尽くされた感もありますが、改めて振り返ってみると、G1に関わる大きな改革がふたつ。 まずひとつ目はJCダートのコース変更で、これまでの阪神ダート1800mから、新たに中京のダート1800mへと舞台が移るというもの。レース名も「チャンピオンズC」と改称されるので、これはもう、完全なフルモデルチェンジ≠ニいった感があります。そのJCダートですが、創設以来の外国馬の出走数を振り返ると、2、5、4、2、3、3、0、3、2、1、0、0、0、1頭で、明らかな先細り状態。特に、東京から阪神へとコースが変わった最近6年では、外国馬の出走数は僅かに4頭。北米ではほとんど採用されていない右回り≠ェ敬遠されていることは、想像に難くありません。まあ、本家(?)のジャパンCでも外国馬の出走数は減少の一途。したがって、外国馬減少の理由はこれだけではないと思われますが、とりあえず左回りに戻すことで何かしらの効果が見られるか……。来年以降、その点には注目の必要がありそうです。 そしてふたつ目。2歳牡馬チャンピオン決定戦の朝日杯フューチュリティSが、阪神へと舞台を移すことになりました。JRAの発表によると、2歳戦の距離多様化に対応すべく中距離でも頂上決戦を設け、それをクラシックに直結させようという青写真が、この改革の根底にあるようです。そこで中距離部門の方は、阪神で行われていたラジオNIKKEI杯2歳SをホープフルSと改称したうえで、皐月賞と同じ中山の2000mに。これに伴い、朝日杯を阪神へと移動させて、マイル路線を目指す馬はそちらにどうぞ、ということに。 将来的には、このホープフルSをG1に昇格申請するとのこと。私の単純な頭では、現在のラジオNIKKEI杯をそのままG1に昇格させれば済むのでは、とも思うのですが……。同じ阪神を舞台とすることで密接に結ばれる阪神JFと桜花賞の関係が、この改革の目指すところのようですし、また、トリッキーで内枠と外枠の影響が大きい中山マイルでの頂上決戦を見直すという意図もあったものと推測できます。
▼変えるべきか、変えざるべきか とにもかくにも、中山の朝日杯≠ヘ今年が最後になりました。実はこの朝日杯、昭和24年の創設以来、1度もコースを変えることなく行われてきたレースでした(距離は昭和36年まで1100〜1200m)。そこで、現在JRAで施行されている22のG1レースを調べてみると、これまでにコースを1度も変えずに施行されてきたのは以下の9レースが該当しました。ちなみに、安田記念はグレード制導入の昭和59年、エリザベス女王杯は古馬戦となった平成8年、そして勿論、阪神JFは牝馬限定戦となった平成3年を事実上の創設年と位置付けています。
<コース不変のG1競走>
22レースのうちの9レースが該当するのなら、そう珍しいことでもないかもしれません。ただ、阪神JF、秋華賞、エリザベス女王杯、NHKマイルC、そしてヴィクトリアマイルは事実上の創設が平成に入ってから。また、安田記念とマイルCSも昭和59年の創設。それらと比較すると、朝日杯のこの記録の持つ重みというものがヒシヒシと伝わってきます。何しろ有馬記念よりも古い昭和24年の創設から、64回に及ぶ若駒の激闘史はすべて中山のターフに刻まれてきた訳です。64年も続いてきたひとつの歴史にピリオドを打つ。それは、極めて重たい決断といえるのではないでしょうか。 ただし、世の中の流れに応じて、あるいは、理想とするものに近づくために、変えるべきものは変えなくてはいけないというのも事実。この朝日杯に関しても、歴代優勝馬のその後を戦績を辿れば、変えるべき問題≠抱えていることは間違いのないところでしょう。それを如実に物語るのが以下のデータ。過去30年の優勝馬を10年ごとに区切り、クラシック3冠競走での成績を示したものです。これで分かる通り、一時期激減していた3冠競走への出走数こそ回復基調にあるものの、皐月賞、ダービーにおける連対率の低下は目を覆うばかり。出てこなくなった≠フならまだしも、出ても通じなくなってきた≠ニなれば、2歳チャンピオンとしては淋しい限りではないですか。
▼朝日杯優勝馬のその後 <@3冠競走への出走状況>
<A3冠競走における連対率>
それでも、朝日杯が東西統一チャンピオン決定戦となった平成3年以降、このレースの覇者が自動的に2歳チャンピオンという構図が確立されていました。朝日杯がどんなメンバーになろうと、そして、どんな馬が勝とうと、それが2歳チャンピオン。それゆえ、JRA賞の最優秀2歳牡馬は朝日杯の副賞≠ネどと揶揄されたこともありました。 しかし、新たなレース体系のもとでは、翌年のクラシックを睨む面々は中山で、マイル王を目指す面々は阪神で頂上決戦を迎えることになります。より優秀な成績を残した方が、そして、よりインパクトの強い勝ち方をした方が2歳チャンピオンの称号を手にする、そんな構図が形成される可能性が高まってきたといえるでしょう。勿論これは、両レースがともにG1として施行されるという前提での話ですが……。 たとえクラシックとの関連が希薄になったとしても、今まで以上にマイル適性に優れた馬が集結し、そこで切磋琢磨することで、より優れたマイラーが誕生する。将来的に朝日杯がそんなレースになれば、65年という長い伝統に区切りをつけた意味もきっと出てくるのではないでしょうか。 ということで、さらば、中山の朝日杯。
美浦編集局 宇土秀顕