10月14日終了時点の藤岡師は、通算で418勝、特別競走は20勝していたものの、75年に調教師免許を取得し、開業の翌76年7月以来延々25年間も重賞の勝利とは縁がなかった。あと一歩と迫る2〜3着というのはその間何回かあっただけに、印象とすれば凄く意外な気がする。
師は高額な馬は馬主の負担を大きくするだけと好まなかった。関係馬主にはスズカの永井啓弐氏(永井商事)や、ゼンノの大迫忍氏、タガノの八木良司氏などモノによっては金に糸目はつけないで大金を投じて良駿を購入しているご仁もいて、何度となく先方から話を持ち込まれていたのだが「高い馬は他厩舎へ、私の方は安い馬で結構ですから」と頑なに拒み続けてきた。
現在では一般的になっている1000万円級でさえ稀にしか在籍していない。たとえ外国産馬であっても、価格の面では極安であった。今を時めくサンデーサイレンス産駒も、37頭の管理馬中で2歳牝馬ジョイフルステージ唯一頭といったあんばい。高額馬が必ずしも走るとは限らないが、好成績を挙げる確率の高さは素人目にも明らかなことだ。「少し考えを改め、ぼちぼち価格にこだわらないで入れて行かなアカンかなァ」しみじみと語る。
今年1年を見てベストテン上位の騎手を起用したのは武豊で3番人気12着に終わったドゥーマイベストのたった一度。主戦は愛弟子の松本達也。あと千田、角田を振り分けて賄ってきた。皮肉なもので、記念すべき初重賞制覇は出張先でもあって、この年初めて依頼した酒井によってもたらされている。馬主さんが音頭を取って催された祝勝会は、周囲をグルッと取り巻いた馬主、来賓客の中に厩舎従業員一同がスッポリ入る形の席の配置。支援してくれる馬主達の温かい思いがストレートに伝わり感動するスタッフを目のあたりにして「やっぱり大きいところを勝たなアカン。喜びが違う」と師は改めて心に誓って、明日とはいわず即刻心新たな第1歩を踏み出した。まァ、注目しといて。
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